【内田雅也の追球】失敗を糧に前を向く姿 前日は涙の阪神・島田 走塁でやり返した

2023年08月11日 08:00

野球

【内田雅也の追球】失敗を糧に前を向く姿 前日は涙の阪神・島田 走塁でやり返した
<巨・神>7回、梅野の投前への打球で三塁に進んだ島田(撮影・大森 寛明) Photo By スポニチ
 【セ・リーグ   阪神5―2巨人 ( 2023年8月10日    東京D )】 阪神・島田海吏の走塁をたたえたい。0―1の7回表、無死二塁で代走で起用された。高いバウンドの投ゴロにスタートを切り三塁を奪った。
 投手・戸郷翔征の三塁送球が少しそれたこともあるが、思い切ったスタートとスピード、スライディングでセーフ。野選を誘ったのだった。

 無死一、三塁となり、一塁けん制の捕球ミスで同点の生還を果たした。三進していたからこその得点だった。

 失敗を取り返す姿に感じ入った。島田は前日の試合で失点につながる凡失をおかしていた。左中間飛球をグラブに当て落球。直後に逆転2ランが頭上を越えていった。

 試合は再逆転で勝ち、「しょうもないミスをしてしまったのをみんながカバーしてくれた。僕はもう感謝しかないです」と涙を流していた。

 失敗に沈み込まず前を向いていた。戸郷は5回表1死一塁では投前バントを素早い動作で二封している。上手の手から水が漏れた背景には島田の突撃姿勢があったと言えないか。昨年、盗塁失敗の後も恐れずに走った経験が生きていた。

 何度でも書くが、ミスが付き物の野球は失敗のスポーツだ。失敗をいかに取り返すかが選手やチームの価値を決める。

 3日前にも書いたが、1973(昭和48)年、「あと1人」で「世紀の落球」をした池田純一を思う。大リーグでは「世紀のトンネル」もある。1986年ワールドシリーズ第6戦、レッドソックス一塁手ビル・バックナーがゴロをトンネルしサヨナラ負けとなった。

 後藤正治の『牙――江夏豊とその時代』によると、池田はテレビのスポーツニュースでバックナーがインタビューを受けているのを見た。「私はこのプレーを一生忘れない。そのことを背負って人生の糧にしたい」。その言葉を聞いた池田は<顔面がぐしゃぐしゃになるほど涙が流れた>。

 やはり野球は人生に通じている。人生は長く、野球のシーズンも長い。失敗を糧にできるかどうかなのだ。

 島田の失敗はチームの勝ったこともあり、小さな失敗かもしれない。ただ、85年には福間納がサヨナラ弾を浴びた原辰徳にやり返し、05年には中村豊が代走で本塁憤死の後に決勝弾を放った。

 やり返すのが強いチームなのだ。貯金の数やゲーム差ではなく、阪神は最後に勝ち、笑えるチームになってきていた =敬称略=(編集委員)

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