【王将戦】藤井王将 スイープV3 大山15世名人超えたタイトル戦20連覇
2024年02月09日 06:01
芸能
「叡王戦では序盤からペースを握られる将棋が多かった。今回はその点を意識して練習将棋で対抗型の経験を積んだり、序盤を深く考えたりした。その経験が生きた」
57手目▲1六飛(第1図)が盲点だった。縦横に無尽の射程がある大駒を前へ1マス、左へ1マスしか動けない空間へ放った。△2六飛▲同飛△同馬と進めば、55手目と同じ駒の配置。その効果で▲3三歩と叩くと△同桂は▲3四歩、△同金は▲2二飛がある菅井に△3一金のつらい退却を強いて攻勢を強めた。
昨秋王座戦第2局以降のタイトル戦連勝を11へ伸ばした。21年度王位戦第5局から記録した13連勝に次ぐ自身2番目。61、62年度に17連勝した大山康晴15世名人にまた近づいた。
シリーズの連覇も20に更新し、大山の記録を抜き去った。その歩みが過去の大記録へ光を当てる一方「記録は意識しても目指せることではない。これまで苦しいシリーズもあった。幸運もあった」と語った。言動は大山と対照的ですらある。
大山の92年の自著「棋風堂堂」(PHP研究所)にある。全5冠になり全盛期とされた63年ごろを回想し「賛辞に有頂天にならず、どこまで記録を伸ばしていくことができるかとそのことだけを考えていた」。記録への執念。60代にして、深夜2時に対局を終え、早朝6時からゴルフへ出かけた体力を武器に負けない将棋を指した。
対して藤井は言う。「大山先生の時代は勝負、駆け引きの側面が強かったと思う。今はドライ。自分はそこまで意識する必要はないと思う」。谷川浩司17世名人が挙げた、棋士として持つべき「3つの顔」を連想させる。勝負師、研究者、芸術家で、大山は勝負師。藤井は研究者か。
幼少時は対局で負けて涙したが、現在は負けた感想戦でも楽しげに振り返る。対戦相手は敵ではなく、先手後手に分かれて一局を追究する共同研究者。羽生善治九段にも通じる、令和のヒーロー像を発信していく。(筒崎 嘉一)
▼日本将棋連盟羽生善治会長 藤井王将、タイトル戦20連勝、誠におめでとうございます。これは塗り替えるのが途方もなく難しい記録ですが、見事に達成されました。これを礎に、大棋士への道のりをさらに歩まれていくことを期待しています。