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名作の“原点”はアユにあり 強烈なインパクト与えた友釣り挑戦 山梨県・葛野川

2024年07月05日 04:30

社会

名作の“原点”はアユにあり 強烈なインパクト与えた友釣り挑戦 山梨県・葛野川
「釣りキチ三平」第1章で描かれた、アユの友釣りをする三平(C)矢口高雄/講談社 Photo By 提供写真
 【「釣りキチ」誕生50年 三平探訪】故矢口高雄さんの名作漫画で、誕生50年を迎えた「釣りキチ三平」ゆかりの釣りを楽しむルポは、アユの友釣りに挑戦した。第1章にも描かれるなど読者に強烈な印象を与えたが、少年読者にはハードルの高いベテラン向きの釣り。なぜ矢口さんは初回の題材に友釣りを選んだのか。前後編に分け、当時の思いに迫った。(岩田 浩史)

 「釣りはフナに始まりフナに終わる」という格言がある。比較的身近な場所で釣れるマブナは、子供も楽しめるシンプルさから「釣りの入門編」とされがちだが、多様な釣りを経験したベテランも引き込まれる奥深さがあるという意味だ。

 これになぞらえ、矢口さんは生前「釣りキチ三平は、アユに始まりアユに終わった」と語った。矢口さんが最も愛した釣り。第1章と最終章の題材とするなど何度も描いた。記者も「いつかやってみたい」と憧れたが、いわゆる“大人の釣り”で、手の出ない少年読者がほとんどだったはず。そんな当時の思いもあって、山梨県の葛野川(かずのがわ)でスポニチAPC・諏訪本修三さんの指導を仰いだ。

 三平のようにジーンズ、わらじ履きとはいかず、ウエットスーツや専用シューズを身に着けて川に入る。連載開始当初の1973年に描かれたアユ師は足袋のようなシューズや陣がさ姿でやぼったい印象もあったが、今のウエアはスポーティーでスタイリッシュだ。

 友釣りは、アユの縄張り意識を利用する釣り。通常の釣りのように、餌がついたハリを魚の口に食わせるのではない。生きたアユをオトリとして泳がせ追い払おうと体当たりしてくる野アユを狙う。オトリの近くにカケバリが仕込んである。

 初心者はオトリアユをポイントに投入するのも一苦労だ。竿の長さは約9メートル。釣り竿では最長の部類で扱いが難しい。「あの黒い岩の奥を狙おう」という諏訪本さんの指示も“手取り竿取り”で指導されている間は「できる」と錯覚するが、1人でやると全く思うようにいかない。いや、投入したオトリが自然に泳いでいくよう竿を保つのすら難しい。

 漫画で初期の三平が手にしたのは竹竿だが、恐らく記者が手にしたカーボン竿の5倍は重い。三平、子供なのに腕力ハンパねぇ…。そもそも三平は跳ぶように川面を駆けたが、スネほどの深さでも水の抵抗に逆らい、大小の石が転がる川を歩くのは結構体力がいる。

 なのに諏訪本さんは水底の岩の色、水の流れ、水温などからアユの居場所を想像し、時には「お。いるね。あそこ」と魚影を見つけて(記者には全く見えない)ポイントを次々に変えていく。漫然と水に糸を垂らして魚が掛かるのを待っていては釣れないのだと改めて認識する。

 そんなアグレッシブなトライが実り、ついに「来たよ!掛かってる!」と諏訪本さん。え?そうなの?竿を立てると確かに重い。水面を切るように糸が走る。たかだか15センチ程度の魚がこんなに重いのか。竿をぐいっと引くと川面から飛び出た2匹のアユが、こちらに飛んできた。それを諏訪本さんが玉網で見事にキャッチ。ポイント選定から取り込みまで完全サポートではあるが、念願だった友釣りでアユをゲットした。

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