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名作初回、色あせぬアユ友釣りの魅力 「静」の印象覆すアクティブ描写 山梨県・葛野川

2024年08月03日 04:30

社会

名作初回、色あせぬアユ友釣りの魅力 「静」の印象覆すアクティブ描写 山梨県・葛野川
三平も徐々に使うようになった「引き抜き」。アユを水面から引き抜き空中でキャッチ(C)矢口高雄/講談社 Photo By スポニチ
 【「釣りキチ」誕生50年 三平探訪】故矢口高雄さんの名作漫画で、誕生50年を超えた「釣りキチ三平」の世界に浸る釣りルポは、アユの友釣りの後編。山梨県の桂川水系・葛野(かずの)川で名人の指導を受け、何とか1匹目をゲット。作品を読みふけった少年時代の夢をかなえたが、釣り好きの欲が収まることはない。連載当時には“幻の技”だった「引き抜き」にも挑戦した。(岩田 浩史)

 1匹でも釣れたら良い。そう思って来たはずが、いざ釣れれば“もう1匹”が無限ループする。2匹、3匹と釣果を重ねても、その欲は全然収まらない。

 だが、順調なのはスポニチAPC・諏訪本修三さんの指導のおかげ。鼻カンを付け、ポイントを選び、オトリを送り込み、掛かったアユの取り込みまで諏訪本さん頼み。これでは釣っているとは言えない。独り立ちしたいと、もがくうちに“手取り竿取り”の指導から少しずつ諏訪本さんの手が離れていく。習熟度を見極め、できることを徐々に増やしてくれたのだろう。恐らく最短ルートで上達できたのではないか。

 友釣りを体験して思ったが「釣りキチ三平」の釣り描写は今も色あせない。漫画で培ったイメージが今回の釣りに生きたと思えるほどだ。とはいえ、さすがに週刊少年マガジン(講談社)連載当時(1973~83年)と変わった部分もある。例えば、掛かったアユを玉網で取り込む方法だ。当時は川岸に導いたアユに駆け寄って玉網ですくい上げるのが普通だったが、今は水面からゴボウ抜きし、飛んでくるアユを玉網に納める「引き抜き」が主流。漫画では当初、三平の祖父で名人の一平だけの高等技術として描かれた。

 当然「引き抜き」にも挑戦した。最初はあらぬ方向に飛びまくり、諏訪本さんに取ってもらったが、6匹目あたりで何とか習得。竿と手を一直線に頭上に伸ばし、バラシを恐れず大胆に引き抜くことが大事と感じた。中途半端に抜くと、魚が水面に当たった衝撃でバレる。カケバリは返しがなく、糸のテンションが緩む時が危ない。

 この日は11時前に納竿し、釣果は2時間強で12匹と大満足。10匹近いバラシも計算に入れて「20匹は釣れた」と考えるのも釣り好きの習性らしい。

 川べりで諏訪本さんの奥さん手製のアユ飯を食べながら反省会。解説と指摘を聞きながら「釣りキチ三平」初回になぜ矢口さんが友釣りを選んだか考えていた。魚の攻撃本能を利用してオトリアユに体当たりする野アユを掛ける特殊な釣り。道具も多く高価で、少年読者には縁遠い釣りだ。

 矢口さんも生前そこに悩みつつ、友釣りの「アクティブさ」を描くことで、世間が釣り全般に持つ「静」のイメージを覆したかったと明かしている。オトリアユを使う特殊性も、漫画的に面白いと考えたようだ。

 実際、諏訪本さんの友釣りはアクティブで、アユの居場所を常に考え、川を歩き回った。気温とともに上昇する水温、川の流れや深さ、アユが食べる岩の水ゴケの状態などあらゆる情報からポイントを選定。同じ場所に5分といなかった印象だ。

 50年前は“魚が食いつくのを待ち、ウキを眺めてひたすら待つ老人の遊び”と思う人も多かった釣り。だが今や、魚の習性を知り、自然の変化に対応し、道具に工夫を凝らす必要があるのは多くの人が知るところ。それを「三平」から学んだ釣りオヤジも多い。

 日本初の釣り漫画として、初回の題材に友釣りを選んだのは最適解だったと改めて感じた釣行だった。

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